精神障害の労災認定の傾向(令和4年度版)
厚生労働省から令和4年度の「過労死等の労災補償状況」が公表されました。
精神障害に関する労災請求件数は年々増加傾向にありますが、今年も過去最多を更新しているようです。
精神障害に関する事案について公表されたデータを細かくみていくと、どのような類型で労災認定されるケースが多いのか、その傾向を読み取ることができます。そこで、今回の記事では、近時の労災認定の傾向について押さえておきたいポイントをまとめてみます。
これからのメンタル対応の参考にしていただければと思います。
「特別な出来事」に該当すると労災認定は必至
上の図は、令和4年度「過労死等の労災補償状況」にもとづき、精神障害に関する事案の類型ごとに労災支給決定・不支給決定をまとめたグラフになります。
たとえば「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」であれば、支給決定(要するに労災だと認定されたケース)が147件、不支給決定が110件で、パワーハラスメントがあったと認定されたケースにおける労災の支給決定率は57%ということになります。
まずはじめに確認してほしい点は「特別な出来事」があったと認められたケースでは、全例で労災認定されている点です。
「特別な出来事」とは、極度な心理的負荷がかかったり、極度の長時間労働があったような場合のことで、具体的には、「本人の意思を抑圧して行われたわいせつ行為」や「1ヶ月の時間外労働が160時間を超えるような長時間労働」などが挙げられます。「特別な出来事」により従業員が精神的な不調を来した場合、労災認定はほぼ避けられません。そのようなケースが生じないよう強く肝に銘じておくべきです。
また「悲惨な事故や災害の体験、目撃をした(72%)」「(重度の)病気や怪我をした(45%)」など、重大な災害や事故に伴ってメンタル的な不調を来したようなケースも、労災認定されやすい傾向にあります。
悲惨な事故が発生した場合、当事者だけでなく周りの従業員にとっても極めて辛い体験になります。
労災事故の発生予防の大切さがうかがいしれます。
「パワハラ」「セクハラ」「長時間労働」は極めて危険な類型
次に気をつけたいのは「パワーハラスメント」「セクシャルハラスメント」「長時間労働」です。
これらを理由にメンタル不調を来したと認定されたケースでは、かなりの高確率で労災認定がされています(「パワーハラスメントを受けた(57%)」「セクシャルハラスメントを受けた(65%)」「月80時間以上の時間外労働をおこなった(78%)」、「2週間以上の連続勤務をおこなった(72%)」)。
ハラスメントや長時間労働によって従業員がメンタル不調を来した場合、会社にとって非常に厳しい判断がなされることを覚悟すべきです。特に「80時間以上の残業」「2週間以上の連続勤務」などは、もはや労務管理として行ってはならないというレベルになってきています。
なお、どういうケースが「パワハラ・セクハラ」と評価されるのかについては、別記事をご覧ください。
(パワハラ・セクハラの記事リンク作成中)
ハラスメントに至らない人間関係トラブルで労災認定されるケースは少ない
人間関係に関するトラブルで、ハラスメントとまでは評価されないようなケースについては、労災認定されている件数はごく少数にとどまっています(「上司とのトラブルがあった(5%)」「同僚とのトラブルがあった(1%)」)。
実は、この「上司とのトラブル」を理由に労災請求するケースはここ数年で倍増してきており、労災申請件数を押し上げている大きな要因になっているのですが、支給決定率は一貫して低値にとどまっています。
この点は、逆の意味で注意が必要で、近年パワハラ・セクハラと言われることを恐れるあまり、上司から部下に対して適切な指導ができないという声をよく耳にします。ですが、業務上必要な範囲での指導や叱責によりメンタル不調を来したケースについては労災と認定されるケースは決して多くはありませんので、過度に萎縮することなく、適切に指導を行っていただく必要があると思います。
通常の業務遂行における負荷には適切なケアが大切
長時間労働のケースを除けば、通常の業務遂行における負荷が引き金となってメンタル不調を来したような場合は、労災認定されるケースはそれほど多くはありません(「配置転換があった(15%)」「転勤をした(20%)」「ノルマが達成できなかった(22%)」「顧客や取引先からクレームを受けた(23%)」「複数名で担当していた業務を1人で担当した(33%)」「新規事業の担当になった(33%)」)。
もっとも、やはり一定の割合で労災認定されている点には、留意しておく必要があります。
当然のことですが、同じような出来事が発生しても、会社からどのようなフォローが受けられたかによって、従業員が受ける心理的負荷の程度は大きく変わってきます。普段から従業員のメンタルケアが行われていなければ、メンタル不調発症のリスクが高くなるばかりか、労災だという話に発展しかねません。適時適切なラインケアを心がけていただきたいところです。
まとめ
以上、精神障害に関する労災認定の傾向について解説しました。
メンタル対応は、多くの会社で悩まれる課題の1つだと思います。労災の発生を防ぐことは、メンタル不調者の発生を防ぐことにもつながります。ぜひ近時の労災認定の傾向を、自社でのメンタル対応に活かして行っていただきたいと思います。