産業保健×法のススメ

増加する健康問題に関する労務トラブル

近年、従業員の健康問題に起因する労務トラブルは急増しています。
労働審判や労働訴訟といった労働問題に関する法的紛争の件数をみると増加の一途を辿っています(図1)。
裁判所に持ち込まれる労働関係紛争の件数をみてみると、1995年には年間約1500件程度であったのに対し、2020年には年間約7800件にまで急激に膨れ上がっているのです。
かつては法的紛争にまでは発展しなかったような労務トラブルが、いまや簡単に紛争化する時代となっています。

図1:地方裁判所の新受件数
(最高裁判所事務総局 司法統計より作成)


とりわけ人事労務担当者を悩ますのがメンタルヘルス不調を来した従業員への対応です。
メンタルヘルス対策が大きな課題となっていることは、労災請求件数の推移に如実に現れています。
脳・心臓疾患の労災請求件数は減少傾向にある一方で、精神障害の労災請求件数は急激に増加しているのです(図2)。
従業員の健康管理において、メンタルヘルス対策の重要性は日増しに大きくなってきています。

図2:労働災害の請求件数及び支給決定件数
(厚労省発表資料より作成)


あるアンケート結果では、直近3年間にメンタルヘルス不調により1ヶ月以上欠勤または休職をした従業員がいる企業は、全体の約92%にのぼるとされています。
ひとつ対応を間違えれば企業の責任が厳しく問われる時代において、メンタルヘルスをはじめとした従業員の健康対策は決して他人事ではなく、全ての企業にとっての重要な経営課題となっています。

従業員の健康課題への対応には医学的判断と法的判断が必須

たとえば従業員がメンタル不調になってしまったとき、企業としてどのように対応すれば良いのか。
とても複雑で、なかなか一筋縄ではいかない難しい問題です。

トラブルに発展しやすい局面を1つあげると、復職判定の場面があります。
メンタル不調などで長期休職していた従業員を復職させて良いのかという判断が求められる場面です。
とりわけ休職期間の満了時期が迫っている場合、復職ができなければ解雇や退職といった問題に直結するため、非常に厳しい判断が迫られることになります。
このような場面では、安易な対応は禁物です。

産業医選任事業場であれば、復職に先立って産業医面談をセッティングすることが多いでしょう。
復職時の従業員の健康状態を適切に把握するためには、やはり産業医面談は必須と思います。
しかし、単に産業医の面談を行えば万全というものではありません。
残念ながら、従業員と面談した産業医の対応がまずいがために、不幸な労使紛争に発展してしまっているケースをしばしばみかけます。
産業医が紛争化を助長することになってしまっては元も子もありませんが、そのようなケースでは、これまで積み上げられてきた復職判断に関する裁判例や、そもそもの労働法制について、産業医自身あまり詳しくないことが多いようです。

復職可否の判断は、純粋に医学的な専門知識があれば適切な判断を導くことができるものではなく、法的判断や法解釈がミックスした問題です。
産業医としても、法的な意味での復職可否の判断について十分理解していなければ、適切な意見を述べることができないのです。

復職判定の場面における極端な例を挙げましたが、そのほか産業医が関わる多くの部分で、医学的判断と法的判断が混在する課題が多いのです。

産業保健×法のススメ

「ひとは財産(人財)」といいますが、従業員の元気と健康が企業活動を支える基盤です。

近年ではコロナ禍においてテレワークが広く浸透するとともに、新たな健康課題も浮き彫りになってきています。
各事業所様の特徴を踏まえて丁寧にお話をお伺いしつつ、複雑に絡まり合う問題を1つ1つ解きほぐしながら、職場の安全と従業員の健康を支えるお手伝いができればなによりと考えております。

お困りごとがございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。